書店の可能性を模索して実験的に行なった「新世紀書店」のレポートと、本の町として知られるヘイ・オン・ワイのレポート。
本を開いてすぐにカラー写真で紹介されるのは、イギリスとウェールズの間にある、「本の町」ヘイ・オン・ワイ。のどかな街並みの仲に自然に溶け込んでいる古本屋は思わず入ってみたくなるような風情をたたえています。一方で、そこには普通の人の生活もあり、本が生活に根づいていると言えるでしょう。
著者の北尾トロ氏は、そんな本の町を日本にも作るべく、2008年に長野県高遠町に「本の家」を開業させています。本書でレポートされる「新世紀書店」の試みは、「本の家」を作るにあたっての前段階として、これからの本屋とはどうあるべきか、を模索したものだと思われます。
ここ数年、ネット書店の台頭や読書離れもあり、リアルの書店の売上は芳しくないものと聞きます。紀伊国屋などの大型書店ならともかく、個人経営の書店でやっていくには、他の書店にはない形でお客さんに接しなければいけません。
「書店内をブラブラする楽しみをプロデュースする」「読書にまつわる家具などのアイテムとともに提供する」「お客さんが陳列棚を作る参加型書店」など、単に本を並べて買ってもらうだけでなく、本好きの人の生活との密着度をさらに高めるような試みが多数なされます。この試みに参加した人たちの短いレポートは、それが充実していたことを物語っています。
本書は、その多くをレポートが占めますが、取次業者の方へのインタビューもあり、出版業界の勉強にもなりました。理想の本屋を追い求めることと、現実の出版業界にあるジレンマ。しがらみに縛られず、読む側/提供する側双方が満足できる道はどういう形なのでしょうね。
ポット出版
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